2020年 マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第3・4戦

矢継ぎ早の2連戦 第3、4戦 ロードアメリカ

 最初は決して期待の持てる展開ではなかったが、ロードアメリカで開催されたインディカー・シリーズの2連戦を佐藤琢磨はいずれもトップ10で終えた。どちらのレースもオープニングラップで遅れたものの、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのダラーラ・ホンダを駆る琢磨は安定したペースでレースを走りきり、土曜日は9位、日曜日は8位でチェッカードフラッグを受けたのである。
 インディGPから直接ロードアメリカにやってきたチームは、冬の間に開発した新しいフィロソフィーのセットアップを引き続き煮詰める方針でいた。「基本的には、前の週に行われたインディGPの流れを継続するつもりでした」と琢磨。「ただし、今回のタイムテーブルは非常に忙しいものでした。初日は75分間のプラクティスに続いて予選とレース1が行われましたが、2日目はプラクティスさえありません。したがって、できることは非常に限られていたのです。週末を通じて分析に費やせる時間はほとんどなかったので、なにをするかをあらかじめ決めなければいけないような状態でした」
「チームメイトのグレアム・レイホールが乗るNo.15と僕が操るNo.30はとてもよく似たプログラムを予定していました。ここでグレアムはクルマの仕上がりにまずまず満足していましたが、残念ながら僕のマシーンは好調とはいえません。75分間のプラクティスを終えても満足できる状態ではありませんでしたが、ほかに選択肢はありませんでした」
 琢磨はプラクティスで17番手のタイムをマーク。続く予選でも結果は似たようなもので、予選グループの8番手に終わった琢磨は午後のレースに15番グリッドから挑むことが決まった。「僕が出走した予選グループにはペンスキーやガナッシがずらりと揃っていて、とてもタフな戦いになりました。ロードアメリカは高速コーナーの多いコースで、もしもマシーンに自信を持てなければタイムをロスします。(遅いコーナーと長いストレートが続いている)コースの前半では速いタイムを記録したドライバーたちとあまり変わりませんでしたが、残る部分ではマシーンのバランスに自信を持てませんでした」
 琢磨がスタート時に選んだのは、少数派となる硬めのブラック・タイヤ。ところがオープニングラップでザック・ヴィーチとバトルをしていたところ、コースからはみ出して22番手に後退する。これは最後尾のひとつ手前にあたるポジションだ。「カルーセル手前のコーナーでザックとサイド・バイ・サイドとなっていましたが、一輪をダートに落としてしまってトラクションを失い、大きく順位を落としました。これで隊列の後方に並ぶことになったのです。でも、その後のペースは悪くありませんでした」
 RLLRチームは1回目のピットストップを早めに実施。すると琢磨は、最初のピットストップ・サイクルが終わったときに16番手、2回目のサイクルが終わったときには14番手へと浮上した。琢磨のペースは速く、最初のスティントではチャーリー・キンボールをパス。続くスティントではライナス・ヴィーケイを仕留めた。けれども、その後はさらなるトラブルが琢磨を襲った。
「フューエルリグがホースに正しく接続されなくて、燃料の一部がこぼれたため、予定していた85~90%分しか給油できませんでした。このため、難しい立場に追いやられました。本来であれば、早めにピットストップしても燃料は十分にもつはずでしたが、実際には燃料をセーブしなければならなくなったのです。それでも、僕はいいペースを保ったままピットストップを先延ばしすることに成功しました。この結果、レース前半はよりフレッシュなタイヤを履いたドライバーたちをアンダーカットすることに成功します。もっとも、この影響で最後のスティントでは少しタイムを失いましたが……」
 幸いにも、ブレーキ・トラブルを抱えたジャック・ハーヴェイがスピン・オフしたところでイエロー・コーションとなる。ここで全ドライバーがピットストップを行ったほか、コナー・デイリーとダルトン・ケレットが関わる事故のためさらに2回イエローは提示された。「これでずいぶん助かりました。もしもイエローが出ていなかったら、燃料をさらにセーブしなければいけなかったうえに、他の多くのドライバーよりも早めにピットインすることになったでしょう。でも、イエローのおかげでレースの流れがリセットされました。このため、僕は多くのドライバーを出し抜くことができ、順位を上げられました。前半は厳しいレースでしたが、力強く戦い抜いたと思います」
 最後のリスタートを示すグリーン・フラッグが振り下ろされたとき、サイモン・パジェノーがアクシデントにあった影響でパト・オワルドが後退したため、琢磨は10番手へと浮上。その後、態勢を立て直したオワルドは琢磨をパスしたが、琢磨はパジェノーの攻略に成功したので、結果的に10番手のポジションを守っていた。ところがファイナルラップでマーカス・エリクソンがミスを犯したため、琢磨は9位でチェッカードフラッグを受けたのである。「多くのドライバーがミスをしたり、タイヤのことで苦しんでいましたが、僕は問題ありませんでした。僕はパトともバトルをしましたが、彼は多くのドライバーを不愉快にさせていました。パトはパジェノーと接触して彼を完全に押し出したほか、僕にもアグレッシブな攻撃を仕掛けてきたのです。ターン1では僕が先行していたのに、サイドポンツーンに当たってきて僕をコースオフに追い込みました。彼が若いことはわかっていますが、他のドライバーをコースから押し出すことは許されません」
 琢磨はヘルメットのエアダクトが機能しなくなった影響で、熱にも苦しめられることとなる。今季からエアロスクリーンが導入されたので、これには想像以上に苦しんだようだ。「すごく暑かった! ピットストップその修正をする間に2〜3秒を失いました」
 日曜日を迎えるにあたって、琢磨はチームのメンバーと議論を交わし、2019年のフィロソフィーに近いセットアップに戻すことを決める。そして、これをベースとしながら、エンジニアのエディ・ジョーンズが新しいファイアストン・タイヤとエアロスクリーンにマッチさせるための修正を行なうことになった。これにくわえて、予選ではソフトなレッド・タイヤを2セット投入する方針を固める。通常、これは決勝レースでの戦いを不利にするが、いっぽうでより上位のスターティンググリッドが手に入る可能性が生まれる。事実、琢磨は予選グループで6番手となり、12番グリッドからレースに挑むことが決まった。「スタートのポジションがよくなったうえ、昨日に比べて上位のドライバーに接近したタイムを記録できました。マシーンは今日のコンディションにぴったりマッチしていたとはいえませんが、僕にはより自然な挙動のように思えました」
 ところが、このスタートポジションのため、琢磨はターン1で危険な状況に追い込まれてしまう。まず、ウィル・パワーによって押し出されたライアン・ハンターレイがクラッシュ。琢磨はこの接触を避けなければならなかったのだ。「2台か3台のマシーンがこのアクシデントに関わっていたので、これを避けるためにひどくタイムをロスしてしまいました」
 これで13番手になった琢磨は、イエロー後のリスタートでパジェノーに順位を譲ってしまうが、やがてパワーがスピンした影響でイエローになると、その後のリスタートで琢磨はパジェノーをパスし、13番手に返り咲いた。
「今回はレッド・タイヤでスタートしたところ、イエローが2回立て続けに提示されました。このおかげでタイヤの温度を上げずに済んだので、タイヤのコンディションをいい状態に保つためにはよかったと思います。この影響で、1回目のピットストップをほんの少し引き伸ばすことができました」
 実際のところ、琢磨は前日とは打って変わり、ピットストップのタイミングを徐々に遅らせることに成功。1回目と2回目のピットストップを行なったときには4番手まで浮上していた。さらに、琢磨はブラック・タイヤを履いた状態でもトップグループと変わりないペースで周回。これを生かしてオリヴァー・アスキュー、ヴィーチ、そしてヴィーケイの3人をパスした。3回目のスティントでは、トラブルさえなければ琢磨はトップ10でフィニッシュすることが確実と思われるようになる。そしてパワーを攻略した琢磨はスコット・ディクソンやジョセフ・ニューガーデンらを仕留めようとしていた。
「レース半ばのふたつのスティントではブラック・タイヤが力強いパフォーマンスを発揮しました。僕はコース上でポジションを上げることに成功し、最後のピットストップ直前にはディクソンとニューガーデンに追いつきます。これはとても、とても嬉しいことでした。なぜなら、僕はまだいいタイヤをたくさん残していたので、最後のスティントでは新品のブラック・タイヤか、予選で使ったレッド・タイヤのどちらかを選ぶことができました。ただし、土曜日はユーズドのレッド・タイヤが高いパフォーマンスを発揮したので、僕たちもこれに倣うこととします。ペンスキー勢も同様で、レースのリーダーであるパトも含めて同じ判断を下しました。ところが、最後のスティントは残念ながら予想とはだいぶ異なる展開となってしまいます! これにはフラストレーションが募りました」
 ピットストップのシーケンス中に琢磨はニューガーデンを攻略して8番手に浮上。しかし、その後はポジションを上げることができず、同じ順位で走行を続けることになる。「フィニッシュまであと5周というところで、タイヤのライフが尽きてしまいました。このため、ジョセフを抑えるのがとても難しい状況となります。チェッカードフラッグまであとコーナー3つ残すのみとなったとき、僕たちは完全にサイド・バイ・サイドとなりました。このとき、僕とジョセフはとてもハードに戦いましたが、それでもフェアでした。彼とこのようなバトルができて、本当に嬉しいと思いました。タフな週末でしたが、チームは素晴らしい働きを示し、僕たちは手堅い成績を収めることができました」
 この後はまたもや休む間もなく、琢磨たちはアイオワ・スピードウェイでのダブル・ヘッダーに挑むことになる。「とてもエキサイティングな気分です。去年のレースではメカニカル・トラブルに見舞われましたが、マシーンはとても好調でした。今年も僕たちの状態はいいはずなので、レースがとても楽しみです」

written by Marcus Simmons


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