2019年 マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第15戦

奇跡の勝利!
第15戦 セントルイス

 優勝! 6月初旬以来、佐藤琢磨を苦しめ続けてきたシーズン半ばの不運がこんな形で幕を閉じると誰に予想できただろうか? ゲートウェイのショートオーバルで行なわれたインディカー・シリーズの第15戦において、琢磨は鮮やかな復活を遂げた。このようなコースではよくあることだが、琢磨は一時期ラップダウンとなりながら、戦略の妙でそこから立ち直ってみせた。とはいえ、No.30をつけたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLLR)のダラーラ・ホンダはその後、目の覚めるような速さを示し、いくつかの驚くべきスティントを走りきって、琢磨がシーズン2勝目を挙げる基盤を作り上げたのである。琢磨がシーズン中に複数勝利を手に入れたのは、インディカー・シリーズに参戦して初めてのこと。今季序盤のバーバー・モータースポーツ・パークで手に入れた圧倒的な勝利に続く栄冠である。

 今回の優勝は、2018年のセントルイスでRLLRが味わった雪辱を果たすものでもあった。「昨年、(ショートオーバルの)アイオワに続いて臨んだセントルイスでも僕たちはコンペティティブだと期待していましたが、実際には散々な結果に終わりました」と琢磨。「昨年手に入れた数多くの経験から、僕たちは大幅に見直したセッティングをここセントルイスに持ち込みました。マシーンは最初のフリープラクティスから好調だったので、とても嬉しかったです。8番手でセッションを終えたこともよかったと思います。去年はキャンセルとなった予選に挑むのが楽しみで仕方ありませんでした」

「2017年以降、インディーカー・シリーズがユニバーサル・エアロを導入したことでダウンフォースが大幅に減少した結果、ゲートウェイはとてもチャレンジングなコースとなりました。ストレートからターンに進入する際には必ずスロットルをオフしなければいけません。今季はショートオーバルでのブースト圧が引き上げられたのでパワーが上がり、2〜3mphほど速くなりましたが、ダウンフォースは同じなのでさらにチャレンジングになったといえます」

 予選で琢磨は5番グリッドを獲得する。「とても勇気づけられる結果で、チームのために嬉しく思いました。非常にいい走りでした。2ラップ目のターン3では、進入のところにあるバンプでヒヤットするシーンがありました。(4番手の)サイモン・パジェノーとは僅差でしたが、5番手は悪くありません。この結果を受け入れます」

 翌日の決勝と近いコンディションで実施された夜のプラクティスでも琢磨の好調は続き、4番手タイムをマークする。「昼間とは特性が大きく変わります。気温が下がるのでダウンフォースが増えるためです。クルマの印象は良好でしたが、タイアのデグラデーションは少し心配でした。ファイアストンが持ち込んだタイアは左側のみコンパウンドを少しソフトにしたものですが、ここにグレイニングが発生する傾向が見られました。そして30ラップを過ぎるとパフォーマンスが大きく低下するので、給油のためというよりはタイア交換のためにピットインする必要があったほどです。もっとも、僕たちはロングランでも好調で、トップ5か、もしかするとトップ3のポジションにいました。状況は徐々によくなっていったものの、決勝レースは信じられないほど難しい戦いになると思われました。先行するマシーンに近づくのは困難だったので、レースをコンペティティブに戦うにはタイア・マネージメントが鍵を握ると予想されました」

 ひどいアクシデントが起きた先週のポコノ以降、琢磨は激しい非難にさらされたが、様々な証拠が示された結果、単なるレーシング・アクシデントであることが明らかになる。にもかかわらず、セントルイスでもスタート直後の攻防は熾烈を極めた。ジェイムズ・ヒンチクリフとライアン・ハンター-レイの挟み撃ちにあった琢磨は2台と軽く接触したこともあって13番手に後退してしまう。「ポコノでは、自分にスペースを与えてくれないと誰もが不満を口にしていたので、今回もみんながアグレッシブなドライビングを見せたことに僕はショックを受けました。僕のスタートはよくありませんでしたが、でも、驚くべきことにイン側からヒンチがきて僕と接触。その勢いでライアンのマシーンに近づいていきました。僕はなんとか持ちこたえましたが、2度もフルコンタクトしたのです。これはちょっとタフでした」

 レース序盤にマーカス・エリクソンがスピン(ただし無傷)してイエローコーションになると、琢磨はここでも3つポジションを落として16番手となる。「いつもそうですが、最初のスティントはコースがグリーンで難しく感じられました。しかもマシーンの感触が思わしくなく、前を走るドライバーについていくのがやっとの状態でした」 エド・カーペンターとコナー・デイリーが目の前でバトルを始めたのは好機に思えたが、このときも琢磨は順位を落とした。「2台がサイド・バイ・サイドとなってチャンスが転がり込んできましたが、ラインを外れた路面はとても滑りやすい状態でした。ここで僕は大きく順位を落とし、列の後方に並ぶことになったので、早めのピットストップを行ないます。コース上に留まったまま順位を上げるのは不可能に近いと思われたからですが、最初のピット・ストップ・ウィンドウを引き伸ばすことは可能だったので、早めにピットへ飛び込むとニュータイアに交換し、これで少し順位を取り戻しました」

 この直後、ウィル・パワーがクラッシュしたためにコーションとなり、誰もがほとんどタイムをロスせずにピットストップを実施。この結果、琢磨はラップダウンから抜け出せなかった。琢磨が順位を上げたのは、トラブルを抱えたスコット・ディクソンがガレージにマシーンを運び入れたときのみ。このためNo.30は引き続きラップダウンで、ポジションは20番手だった。琢磨はイエロー中にもう1度ピットストップを行なう。「次のスティントを長引かせばリードラップに返り咲ける可能性があったので、これを試し、そして成功しました。これは本当によかったと思います」

 次の琢磨のスティントはとても長いもので、エリクソンがクラッシュしたときには11番手まで浮上していた。それは琢磨が間もなくピットインをしようとするタイミングで、上位陣がピットストップを終えていたおかげで琢磨はリードラップに復帰していた。したがって、この直後のイエローでピットストップを行なっても、琢磨はリードラップのままで、しかも13番手でコースに戻ることができた。これがレース半ばのことである。「とてもコンスタントなペースだったように思います。クルマは最高の状態に戻っていて、次第に燃料をセーブできるようになりました。この頃のスティントがレースの結果に大きく影響しました」

 リスタートではハンター-レイが琢磨を飛び越していったが、その直後にスペンサー・ピゴットがクラッシュしたためレースは再びイエローとなる。このときエド・カーペンターがピットインしたので、次のリスタートで琢磨は12番手に駒を進めた。続くスティントでは上位陣が続々とグリーン中にピットストップを実施したため、琢磨の順位は次第に上がっていった。このスティントの後半、琢磨はマルコ・アンドレッティとハンター-レイを仕留める。残り60ラップ、琢磨の前方を走る最後の数台がピットインしたため、琢磨は首位に立った。しかし、琢磨が最後に行なう予定だったピットストップは、セバスチャン・ブールデがウォールと接触してイエローが提示されたことで大ピンチを迎える。
「このスティントで僕はライアンとマルコの後ろにつけていました。僕たちは同じようなペースで周回を重ねていましたが、20ラップか30ラップ走ると、彼らはタイアが消耗して苦しみ始めました。僕のほうがタイアはいい状態です。やがて前方の視界が開けると、まるで予選のときのように必死でプッシュしました。素晴らしいスティントでした。僕たちはほかの誰よりも多くの周回をこなし、次々とファステストラップを叩き出しました。これがレースの流れを決定づけました」

 このレースでは、イエローのタイミングも琢磨に味方した。それはまるで、この3ヵ月間続いた琢磨の不運を完全に払拭するようなできごとだった。レースが残り43周で再開されたとき、誰もがこのままフィニッシュまでフラットアウトで走りきることになると考えていた。このとき、琢磨はトニー・カナーンとエド・カーペンターをリードしていたが、思いどおりにことは運ばなかった。

「同じことが2度起きました。残りの燃料は1周分しかなかったので、僕は無線を通じて『ボックス、ボックス』と伝えました。ところがここでイエローが出て、ピットロードがクローズとなったのです! イエローになれば3周か4周は走れますが、僕はできるだけ燃料をセーブすることにします。燃料の残量警告灯が点灯したものの、ピットはクローズ状態です。このときはかなり焦りましたが、とにかくできることをすべてやりました。そしてまさにピットロードがオープンになったとき、最後の燃料がコレクタータンクに流れ込み、エンジンは咳き込み始めました。おそらく、あと数百ヤード(1ヤードは約0.9m)しか走れなかったはずです。まさに奇跡でした! ピットアウトしたときもステアリング上の表示はP1のままだったので、僕は故障しているのかと思いました。そこでリーディングボードを見たところ、No.30がトップに表示されていたのです。なんでこんなことができたのか、本当に驚くしかありません。1回の給油で誰よりも長く、そして誰よりも速く走れるクルマを用意してくれたメカニックたちが最高の仕事をしてくれました」

 チェッカードフラッグを受けた琢磨に瞳は、まずカナーンを、続いてカーペンターの姿を捉えた。「懐かしいNo.14(AJフォイトに在籍するカナーンはかつて琢磨が使ったカーナンバーを引き継いでいた)が僕の後ろにいたことが本当に嬉しく思えました。TKは激しい走りもできるドライバーなので、僕はちょっと心配していましたが、最後までレースをコントロールできてホットしました。もしもリスタートになっても、問題なく対処できる自信はありました。リスタートでも危険を冒すことなく、必要なギャップを作り出せました。スリップストリームを使えば2秒くらいのギャップを保つことができました」

「僕たちはタイア・マネージメントもできると考えていましたが、10〜20ラップ走るとリア・タイアがグレイニングやブリスターを起こしてひどいバイブレーションが発生したため、少し心配に思われました。どうやらトニーも似た状況だったようです。ヒンチに行く手を阻まれたときは、予選用の燃料ミクスチャーを使って彼を抜き去りましたが、その後、トニーやエドは問題なくパスできました。トニーとのギャップをコンマ7秒かコンマ8秒で保っていたときはこのままいけそうだと思いましたが、やがてエドがチャージを開始しました」
「エドは、その前のスティントで僕が経験したのと同じような状況となります。トニーをパスして、僕との差をつめてきて、ホワイト・フラッグが振られたときにはテール・トゥ・ノーズになっていたのです。このときは本当にピンチでしたが、僕は全力を尽くし、100分の4秒差で優勝しました!」

「優勝はいつも特別なものですが、今回は……。僕を応援してくださった皆さんにはお礼の言葉も見つかりません。ポコノの後、すべての証拠を提出したものの、ゲートウェイにやってくるまでの日々はとても辛いものでした。チームは全面的に僕をサポートしてくれて、声明文までリリースしました。あるアメリカ人ジャーナリストが教えてくれましたが、今回のようなことでチームが声明文を発表したのを彼は見たことがなかったそうです。彼らは正しいことのために戦ってくれました。僕は本当に運がよかったと思います。しかも、セントルイスには多くのファンが駆けつけてくれて、僕を応援してくれました。ドライバーズパレードでは何千人ものファンが僕の名前を呼んでくれて、とても嬉しく思いました。彼らの力があったから僕たちは強くなれたし、こんな奇跡のような結果で彼らに恩返しできたことを心から喜んでいます」

 これで通算5勝目を挙げた琢磨は、インディカー・シリーズで用いられるすべてのコース——市街地サーキット、スーパースピードウェイ、ロードコース、ショートオーバル——で栄冠を勝ち取ったことになる。また、この勝利によりチャンピオン争いで6番手に返り咲いた。しかも次戦は、2018年に見事なレース戦略で優勝を飾ったポートランドが舞台となる。「最後の2レースも全力で戦います。僕はポートランドが大好きです。きっと素晴らしいレースができるはずです」

written by Marcus Simmons

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